
2017年にスタートしたセルフメディケーション税制を皮切りに、近年ではセルフメディケーションへの取り組みが国により推進されています。さらなるセルフメディケーションの推進には、スイッチOTC化の促進が重要とされており、緊急避妊薬についても議論されてきました。反対意見により一度見送りとなっていたスイッチOTC化ですが、2021年6月7日の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(検討会議)」において緊急避妊薬が再び議題に挙がりました。そこで今回は緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けての経緯や今後の方向性についてご紹介します。
1 緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けた動き
2000年ごろになると、急速に進む高齢化の影響もあり、疾病の予防や健康寿命、QOLに関心を持つ人が増加しました。日頃からの生活習慣や食事内容の改善に加え、自分の健康は自分で守るというセルフメディケーションの考え方がだんだんと広がっていきました。これを受けて、2002年に開かれた「一般用医薬品承認審査合理化等検討会」では、国民のニーズを反映したOTC医薬品の範囲の見直しが必要とされ、スイッチOTC薬の積極的な開発についても提言されました。
2013年に発表された「日本再興戦略」においてもセルフメディケーションの推進は主要施策の1つとなり、さらに、2014年の「日本再興戦略改訂」では、スイッチOTC化をスムーズに進めるために速やかな審査を行うことが盛り込まれました。
さらに、2016年に「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(検討会議)」が設置されました。検討会議では、これまでに28成分の候補医療用医薬品について一般用医薬品への移行の検討が行われ、うち11成分が認められた経緯があります。一方で、17成分が不可とされ、そのうちの1つに緊急避妊薬であるレボノルゲストレルがありました。
緊急避妊薬は一般消費者からの要望を受けてスイッチOTC薬の候補となりました。
しかし2017年の検討会議では、避妊薬では完全に妊娠を阻止することができないことや、悪用や濫用等の懸念があることなどから見送られました。また、その際に報告されたパブリックコメントによると、緊急避妊薬のOTC化に対する反対意見は28件、賛成意見は320件ありました。主な反対意見は以下の通りでした。
- 避妊の成功の判断が使用者自身では困難。
- 欧米などと比べて日本の性教育が遅れている背景から、避妊薬等に関する使用者自身のリテラシーが不十分。
- 薬剤師にさらなる専門知識を身につけてもらう必要がある。
- 安易な販売によって悪用や濫用等の懸念がある。
- 緊急避妊薬に関する認知度が高くない。
- 制度上、要指導医薬品としてとどめ置くことができないため、薬剤師による対面の情報提供や指導を義務化できない。
- 高額なため、各店舗に適切に配備できず、在庫がばらつく懸念がある。
2 オンライン診療における緊急避妊薬の処方
そもそも緊急避妊薬の薬局販売が求められる背景は人口妊娠中絶数からみることができます。2020年(1月~12月)における人口妊娠中絶数は145,340件であり、年々減ってはきているものの、多くの女性が望まない妊娠に苦しむ現状がうかがえます。
図 人工妊娠中絶数
参考:衛生行政報告例:結果の概要、厚生労働省 2020年度の人工妊娠中絶数の状況についてから作成
さらにゼネラルリサーチ株式会社が行った「緊急避妊薬の薬局販売」に関する意識調査によると、緊急避妊薬を使用したことがある女性は約8人に1人という結果でした。一方で、緊急避妊薬の薬局販売について尋ねると、8割以上が「賛成」「どちらかと言えば賛成」と回答し賛成派が多い結果となりました。
最近では、受診せずに緊急避妊薬を入手したいという需要を利用した緊急避妊薬の無許可販売が問題となっています。2019年にはフリマアプリを用いて海外個人輸入された緊急避妊薬が転売され、転売者が薬機法違反で逮捕されるケースが発生しました。
さらに、緊急避妊薬を必要とする人がより安全に薬を入手できるための取り組みも始まっています。2020年4月からは、オンライン診療における緊急避妊薬の処方が開始。必ずしも医療機関を直接受診する必要がなくなったため、緊急避妊薬を飲めない理由が受診の可否にある人にとっては選択肢が拡がりました。
オンライン診療による緊急避妊薬の調剤は、まず患者さんがオンライン診療可能な医療機関へ連絡し、オンライン受診することから始まります。オンライン診療を実施した医師は、患者さんが希望する調剤薬局に対応の可否を確認し、可能であればFAX等により処方せん等を送付。そして患者さんが薬局へ来局した際に、薬剤師が調剤・服薬指導を行います。処方せん原本はのちほど病院から薬局へ送付されるという流れです。
図 オンライン診療における緊急避妊薬の調剤の手順(イメージ)
出典:厚生労働省 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づく薬局における対応についての資料を基に作成
また、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を踏まえ、薬局における緊急避妊薬の調剤は研修を修了した薬剤師が対応することとされています(2020年4月10日に発表された「新型コロナウイルス感染症の影響による期間限定の緊急対応」、いわゆる0410対応の解釈として、”原則緊急避妊薬に関する研修を受けることが望ましい”とされているため、事実上研修を受講していない薬剤師も対応可能)。2021年4月30日現在で約9,000人の薬局薬剤師が研修を受け、修了者は厚生労働省のウェブサイトでも公開されています。緊急避妊薬を必要とする女性に、より安全に、より早く薬を届けるための下地が着々と整っていることが見受けられます。
3 今後の検討会議の流れ
次々とオンライン診療での緊急避妊薬処方の取り組みが進む中、一般消費者の強い要望を受け、緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けた議論も活発化しています。2021年2月2日には検討会議による中間とりまとめが発表され、緊急避妊薬を一般用医薬品へ移行するにあたって必要な課題が具体的に示されました。
そして、2021年6月7日の第16回検討会議において緊急避妊薬のスイッチOTC化についての議論が再開されました。今回から始まった緊急避妊薬についての議論は、数回にわたる検討会議の中で行われます。今後は、女性の支援団体や産婦人科医等の専門家から意見を聞き、海外での販売状況や使用状況を含め調査を進めていく予定です。また、性教育のあり方や薬剤師の研修等の課題についても検討するとしています。
4 これからの薬局に求められる役割
妊娠の可能性がある性行為や性被害等の原因による「予期せぬ妊娠」によって、人工妊娠中絶や子供への虐待につながる現状があります。特に、緊急避妊薬は、性交後72時間以内に内服する必要があります。時間の制約により素早い対応が重要となるものの、エリアにより産婦人科病院等が近隣になく受診がしにくい状況にあったり、精神的負担から医療機関への受診がしにくいことがあります。緊急避妊薬のスイッチOTC化が現実となることで、「予期せぬ妊娠」をできる限り防ぎ、女性の体や心への大きな負担を軽減することができるでしょう。
「予期せぬ妊娠」に苦しむ女性を減らすためにも、地域の薬局が担う役割はさらに大きなものとなっていくと考えられます。
Recommend
関連記事2021.06.23
2017年にスタートしたセルフメディケーション税制を皮切りに、近年ではセルフメディケーションへの取り組みが国により推進されています。さらなるセルフメディケーションの推進には、スイッチOTC化の促進が重要とされており、緊急避妊薬についても議論されてきました。反対意見により一度見送りとなっていたスイッチOTC化ですが、2021年6月7日の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(検討会議)」において緊急避妊薬が再び議題に挙がりました。そこで今回は緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けての経緯や今後の方向性についてご紹介します。
Contact
お問い合わせSupport Service
薬局経営支援サービス「医薬品ネットワーク」
Interview
インタビュー記事「薬局の存在を、次のフェーズへ」
会社やエリアの垣根を超えて。
若手薬剤師合同研修を主催する狙いとは?
「薬局の存在を、次のフェーズへ」
株式会社フォルマン
取締役・研修認定薬剤師秋山 真衣
研修認定薬剤師 小林 大介