
忙しい薬局経営者に! パッと見てわかる新薬解説
2022年4月20日、厚生労働省は新薬8製品を薬価収載しました。多くの薬剤師が動向を確認する新薬の発売状況。日々、経営業務に追われて、見過ごしてしまっていませんか? そこで今回は日々忙しい薬局経営者や薬剤師の方々のために、保険薬局で取り扱われる薬に絞って要点をわかりやすく解説していきます。
目次
1 保険薬局で取り扱う新薬を紹介
薬価や算定方式については、2022年4月13日に行われた第519回中央社会保険医療協議会(中医協)総会で了承されています。
今回薬価収載された8の新薬のうち、保険薬局で取り扱う機会の多い以下6製品の特徴を簡単に紹介していきます。
2 レイボー錠(ラスミジタンコハク酸塩)
レイボーは、片頭痛発作の急性期治療に使用される世界初の5-HT1F受容体選択的作動薬です。
さまざまな原因により三叉神経が刺激されることで、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やグルタミン酸などの血管作動性の神経伝達物質が分泌されるといわれています。CGRPが血管CGRP受容体に作用することで血管拡張作用が働きますが、過度の血管拡張が起こると血管周囲の神経が圧迫されて痛みが生じます。また、CGRPが炎症反応や痛みを直接的に増強する作用もあり、過度の血管拡張と炎症反応により片頭痛が引き起こされます。
血液脳関門通過性を持つレイボーは、中枢及び抹消の三叉神経系神経細胞に発現する5-HT1F受容体に選択的に結合して刺激することで、三叉神経からのCGRP放出を抑制し、片頭痛の症状を抑えます。また、レイボーは5-HT1B受容体にはほぼ作用せず、血管収縮に影響を与えないため、トリプタン系の片頭痛薬では禁忌であった心筋梗塞や脳梗塞などが併存する患者にも使用できます。
成人には1回100mgを片頭痛発作時に経口投与します(患者の状態により50mg又は200mgの投与可)。
製品名 | レイボー錠50mg、同錠100mg | |
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規格単位(薬価) | 50mg1錠(324.70円) 100mg1錠(570.90円) |
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効能・効果 | 片頭痛 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 8年後 |
ピーク時投与患者数 | 13万人 | |
ピーク時販売金額 | 28億円 | |
製造販売(発売日) | 日本イーライリリー(発売日未定) |
3 エヌジェンラ皮下注(ソムアトロゴン(遺伝子組換え))
エヌジェンラは、ヒト成長ホルモンにヒト絨毛性ゴナドトロピンのβサブユニットのC端末ペプチドを融合することにより半減期を延長した新規の長時間作用型ヒト成長ホルモン製剤です。週1回の皮下投与で用います。
成長ホルモン分泌不全性低身長症は、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌が不十分であることにより生じる成長障害の一つであり、指定難病とされています。現在の治療法は、成長ホルモン製剤の皮下投与が一般的です。これまでの成長ホルモン製剤による治療は連日皮下投与でしたが、週1回投与を選択できることで患者及び家族の負担軽減やアドヒアランスの改善が期待されます。
投与の注意として、薬剤投与が遅れた場合はあらかじめ定められた投与日から3日以内であれば気付いた時点で投与し、その後はあらかじめ定めた曜日に投与します。投与日から3日を超えた場合は投与せず、次のあらかじめ定めた曜日に投与することとされています。
通常、0.66mg/kgを1週間に1回皮下投与します。
製品名 | エヌジェンラ皮下注24mgペン、同皮下注60mgペン | |
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規格単位(薬価) | 24mg1.2mL1キット(43,032円) 60mg1.2mL1キット(107,580円) |
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効能・効果 | 骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 7年後 |
ピーク時投与患者数 | 5.2千人 | |
ピーク時販売金額 | 64億円 | |
製造販売(発売日) | ファイザー(発売日未定) |
4 ラピフォートワイプ(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)
ラピフォートは原発性腋窩(えきか)多汗症を効能・効果とするワイプ剤です。グリコピロニウム臭化物の塩違いであり、抗コリン作用を有します。
原発性腋窩多汗症はわきの下に日常生活に支障をきたすほどの発汗を生じる疾患です。発汗に関与する神経伝達物質であるアセチルコリンがエクリン腺のムスカリンM3受容体に結合することで、発汗が促進するといわれています。ラピフォートはアセチルコリンのムスカリンM3受容体への結合を阻害し、エクリン腺からの汗の産生を抑制します。
原発性腋窩多汗症治療の外用薬には塩化アルミニウム溶液の外用療法やエクロックゲル(ソフピロニウム)、重度の症状にはボトックス筋注(A型ボツリヌス毒素)が使われます。今回初めて不織布に液剤を浸したシートタイプであるワイプ剤が開発されました。
ラピフォートは1日1回、1包に封入されている不織布1枚を用いて薬液を両腋窩に塗布します。1回使い切りのため、簡便かつ衛生的に使うことができます。しかし、薬液が眼に入ることで眼の調節障害が現れたり刺激を感じたりすることがあるので、眼に入らないように注意し、使用後は直ちに手を洗うという指導が必要です。また、臨床試験では、塗布後少なくとも4時間は腋窩を洗わないという実施計画のもとで行いました。
製品名 | ラピフォートワイプ2.5% | |
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規格単位(薬価) | 2.5%2.5g1包(262.00円) | |
効能・効果 | 原発性腋窩多汗症 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 7年後 |
ピーク時投与患者数 | 5.6万人 | |
ピーク時販売金額 | 34億円 | |
製造販売(発売日) | マルホ(発売日未定) |
5 リフヌア錠(ゲーファピキサントクエン酸塩)
リフヌアは、初の難治性の慢性咳嗽に対する経口選択的P2X3受容体拮抗薬です。
8週間以上継続する咳嗽を慢性咳嗽と分類します。慢性咳嗽では原因不明又は抵抗性の難治例も少なくありませんが、いままで難治性の慢性咳嗽に対する有効な治療法は確立されておらず、咳嗽の継続によるQOL低下が問題となっていたため、新たな治療選択肢の開発が期待されていました。
咳嗽の発生機序の一つとして、気道の炎症条件下で気道粘膜細胞からアデノシン三リン酸(ATP)が放出され、このATPが気道の迷走神経のC線維上にみられるATP依存性チャネルであるP2X3受容体に結合することで侵害シグナルとして感知し、咳嗽反射を惹起させることがあります。リフヌアは、P2X3受容体を介した細胞外ATPシグナル伝達を阻害することで、感覚神経の活性化及び咳嗽を抑制すると考えられています。
食事の影響は受けず、成人には1回45mgを1日2回経口投与します。腎排泄型薬剤であり、重度腎機能障害(eGFR<30mL/min/1.73m2)で透析を必要としない患者では、1日1回45mgで投与します。また、副作用として味覚不全が40.4%にみられたことが報告されているため、注意が必要です。
製品名 | リフヌア錠45mg | |
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規格単位(薬価) | 45mg1錠(203.20円) | |
効能・効果 | 難治性の慢性咳嗽 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 19万人 | |
ピーク時販売金額 | 160億円 | |
製造販売(発売日) | MSD(4月21日) |
6 ビンゼレックス皮下注(ビメキズマブ(遺伝子組換え))
ビンゼレックスは、炎症性サイトカインのIL-17AとIL-17Fを選択的かつ直接的に阻害するヒト化モノクローナルIgG1抗体です。乾癬に適応を持つ生物学的製剤としては11剤目で、効能・効果としては「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」が承認されています。
乾癬は難治性の慢性皮膚疾患です。病変部では、活性化した樹状細胞から産生されるIL-23がTh17細胞の分化を促進し、IL-17A及びIL-17Fの産生を誘導します。これらがホモ及びヘテロ二量体を形成してTNFαと相乗的に作用し、乾癬における皮膚症状の悪化を引き起こします。
これまでIL-17Aを阻害する製剤は発売されていますが、ビンゼレックスはIL-17Fも選択的に阻害するので、IL-17Aのみの阻害よりもさらに強い炎症抑制効果が期待できます。
成人には1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射します(患者の状態により16週以降も4週間隔で皮下注射可能)。また、IL-17は感染症を防ぐ働きもあるため、IL-17を阻害するビンゼレックス投与中は感染症にかかりやすくなるので注意が必要です。
製品名 | ビンゼレックス皮下注160mgオートインジェクター、同皮下注160mgシリンジ | |
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規格単位(薬価) | 160mg1mL1キット(156,820円) 160mg1mL1筒(156,587円) |
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効能・効果 | 既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬及び乾癬性紅皮症 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 9年後 |
ピーク時投与患者数 | 5.6千人 | |
ピーク時販売金額 | 120億円 | |
製造販売(発売日) | ユーシービージャパン(4月20日) |
7 ルマケラス錠(ソトラシブ)
ルマケラスは、国内初のがん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬です。NSCLCで認められるドライバー変異のひとつであるKRAS G12C変異は、日本人の非扁平上皮非小細胞肺がんの4.5%に認められるといわれています1)。
KRASはシグナル伝達経路の中心的な役割をはたすタンパク質で、活性型と不活性型で切り替わることで細胞分化や増殖を調節しています。KRAS変異の中で最も多い変異サブタイプはG12Cで、KRAS変異全体の29.5%を占めていました2)。ルマケラスはKRAS G12Cに非可逆的かつ選択的に結合してKRAS G12Cを不活性化状態に維持し、下流にあるシグナル経路を阻害することで腫瘍増殖抑制作用を示すとされています。
肺癌診療ガイドライン(2021年版)ではKRAS G12C変異陽性患者に二次治療以降でルマケラス単剤療法を行うことが推奨されています3)。
成人には1回960mgを1日1回経口投与します(患者の状態により適宜減量)。
1) Tamiya Y, et al. J Clin Oncol. 2020; 38(5): 9589
2) Liu SY, et al. Biomark Res. 2020; 8: 22
3) 日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン(2021年版)
製品名 | ルマケラス錠120mg | |
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規格単位(薬価) | 120mg1錠(4,204.30円) | |
効能・効果 | がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 485人 | |
ピーク時販売金額 | 23億円 | |
製造販売(発売日) | アムジェン(4月20日) |
※上記の薬価や効能・効果は全て収載時(2022年4月20日現在)のものです。
※ピーク時・ピーク時の投与患者数・ピーク時の販売金額は、販売製造元が市場規模予測したものです。
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