
忙しい薬局経営者に! パッと見てわかる新薬解説
2022年5月25日、厚生労働省は新薬14製品を薬価収載しました。多くの薬剤師が動向を確認する新薬の発売状況。日々、経営業務に追われて、見過ごしてしまっていませんか? そこで今回は日々忙しい薬局経営者や薬剤師の方々のために、保険薬局で取り扱われる薬に絞って要点をわかりやすく解説していきます。
目次
1 保険薬局で取り扱う新薬を紹介
薬価や算定方式については、2022年5月18日に行われた第521回中央社会保険医療協議会(中医協)総会で了承されています。
今回薬価収載された14の新薬のうち、保険薬局で取り扱う機会の多い以下8製品の特徴を簡単に紹介していきます。
2 ケレンディア錠(フィネレノン)
ケレンディアは、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の治療に使用される唯一の非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬です。CKDにおいて新しい作用機序の薬剤です。
アルドステロンによるMRの過剰な活性化を阻害し、炎症や線維化を抑制することで、心血管や腎臓への障害を防ぐ作用を示すと考えられています。
eGFRが60mL/min/1.73m2以上の場合は1日1回20mgを投与します。eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は1日1回10mgから投与を開始し、血清カリウム値とeGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。
CYP3Aを強く阻害する薬剤は併用禁忌です。また、投与開始時に血清カリウム値が5.5mEq/Lを超えている患者、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)患者、アジソン病患者には投与禁忌となっています。
製品名 | ケレンディア錠10mg、同錠20mg | |
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規格単位(薬価) | 10mg1錠(149.10円) 20mg1錠(213.10円) |
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効能・効果 | 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。 |
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市場規模 予測 |
ピーク時 | 9年後 |
ピーク時投与患者数 | 45万人 | |
ピーク時販売金額 | 264億円 | |
製造販売(発売日) | バイエル薬品(発売日未定) |
3 カログラ錠(カロテグラストメチル)
カログラは、潰瘍性大腸炎を効能・効果とする世界初の経口投与可能なα4インテグリン阻害剤です。
T細胞表面に発現するα4β1インテグリンとα4β7インテグリンに作用し、それぞれの受容体VCAM-1とMAd-CAM-1との接着を阻害することで、大腸粘膜の血管内皮細胞に過剰に発現する接着分子との結合を介する細胞接着反応を阻害し、炎症部位への過剰な炎症性細胞の集積・浸潤を抑制します。その結果、抗炎症作用を発揮すると考えられています。
標準薬の5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤を用いても効果不十分または不耐であった中等度活動期の潰瘍性大腸炎患者を対象に行った第Ⅲ相臨床試験などの結果より、「5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る」とされています。
通常、成人には1回960mgを1日3回食後経口投与します。重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)患者、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与禁忌です。また、進行性多巣性白質脳症(PML)の発現リスクを高める可能性が指摘されており、維持療法のために投与しないこととされており、投与期間は最長6ヶ月までという制限があります。
製品名 | カログラ錠120mg | |
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規格単位(薬価) | 120mg1錠(200.00円) | |
効能・効果 | 中等症の潰瘍性大腸炎(5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る) | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 8.9千人 | |
ピーク時販売金額 | 30億円 | |
製造販売(発売日) | EAファーマ(5月30日) |
4 ジスバルカプセル(バルベナジントシル酸塩)
ジスバルは、日本初の遅発性ジスキネジアを適応症とする小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬です。これまでは、抗精神病薬などを長期間使用することで起こる遅発性ジスキネジアに対して、原因薬の中止や他製剤への切り替えなどによる対処法しかありませんでした。
中枢神経終末であるシナプス前小胞に存在するVMAT2を選択的に阻害することにより、神経伝達物質のシナプス前小胞への取込みを抑制します。その結果、シナプス間隙に放出されるドパミン放出量が減少することで、遅発性ジスキネジア患者における不随意運動を改善することが期待されています。
通常、成人には1日1回40mgを経口投与します。症状により適宜増減しますが、1日1回80mgを超えないこととされています。
製品名 | ジスバルカプセル40mg | |
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規格単位(薬価) | 40mg1カプセル(2,331.20円) | |
効能・効果 | 遅発性ジスキネジア | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 1.8万人 | |
ピーク時販売金額 | 62億円 | |
製造販売(発売日) | 田辺三菱製薬(発売日未定) |
5 ミチーガ皮下注(ネモリズマブ(遺伝子組換え))
ミチーガは、アトピー性皮膚炎(AD)に伴うそう痒に対する初のヒト化抗ヒトインターロイキン-31受容体A(IL-31RA)モノクローナル抗体です。
インターロイキン(IL)-31はTh2細胞から産生されるそう痒誘発性サイトカインです。IL-31の受容体であるIL-31RAに結合すると、オンコスタチンM受容体とヘテロ二量体を形成し、下流のヤヌスキナーゼ(JAK)/シグナル伝達性転写因子(STAT)シグナル伝達系を活性化することで、細胞内に刺激を伝達します。
ADにおいて、IL-31は末梢神経の細胞体を含む後根神経節や皮膚に分布する神経終末に発現しているIL-31RAに結合し、そう痒のシグナルを中枢に伝達します。また、IL-31は後根神経節細胞の神経線維の伸長を選択的に促進することで皮膚の感覚過敏に関与することが考えられます。
ミチーガは、IL-31と競合的にIL-31RAに結合することにより、IL-31の受容体への結合とそれに続く細胞内へのシグナル伝達を阻害し、ADに伴うそう痒を抑制します。
通常、13歳以上に対して1回60mgを4週間の間隔で皮下投与します。
製品名 | ミチーガ皮下注用60mgシリンジ | |
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規格単位(薬価) | 60mg1筒(117,181円) | |
効能・効果 | アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る) | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 6年後 |
ピーク時投与患者数 | 3.1千人 | |
ピーク時販売金額 | 23億円 | |
製造販売(発売日) | マルホ(発売日未定) |
6 タクザイロ皮下注(ラナデルマブ(遺伝子組換え))
タクザイロは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の発症抑制を効能・効果とする遺伝子組換え完全ヒト型抗ヒト血漿カリクレインモノクローナル抗体です。同じ効能・効果を持つオラデオ(ベロトラルスタット)は連日投与の必要がありましたが、タクザイロは2週間に1度投与します。
HAEは腹部、顔面、足、性器、手、喉など身体のさまざまな場所に急性かつ繰り返し浮腫発作を引き起こす希少な遺伝性疾患です。特に上気道の激しい浮腫により、呼吸困難や窒息など死に至る症状を引き起こす危険性があるため、発作が起きた場合は早期治療が必要となります。
カリクレインは、強い血管透過性亢進作用を持つブラジキニンの産生に重要な役割を果たします。通常、カリクレインはC1-インヒビターによって産生が抑制されています。HAEではC1-インヒビターが欠損していたり活性が低下していたりするため、過剰に産生されたブラジキニンがブラジキニンB2受容体に結合することで、血管透過性が亢進し浮腫を引き起こします。
タクザイロは活性化された血漿カリクレインに対する阻害薬であり、HAEの急性発作の原因となるブラジキニンの過剰な放出を抑制する結果、HAEの急性発作予防につながると考えられています。
通常、成人及び12歳以上の小児には、2週間に1回300mgを皮下注射します。なお、症状安定後には、4週間に1回300mgを皮下注射することができます。
製品名 | タクザイロ皮下注300mgシリンジ | |
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規格単位(薬価) | 300mg2mL1筒(1,288,729円) | |
効能・効果 | 遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 182人 | |
ピーク時販売金額 | 61億円 | |
製造販売(発売日) | 武田薬品工業(5月30日) |
7 セムブリックス錠(アシミニブ塩酸塩)
セムブリックスは、新作用機序であるBCR-ABLミリストイルポケット標的(STAMP)阻害作用を有しており、従来のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)とは異なる作用機序を持つ新しい慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬です。2剤以上のTKIによる前治療に抵抗性または不耐容のCML患者に使用します。
BCR-ABL融合遺伝子により産生されるBCR-ABLにはATP結合部位のほか、その活性をコントロールするABLミストイルポケット部位があります。正常であればC末端側のミストイルポケットにN末端部分が結合すると不活性化しますが、BCR-ABLではN末端側がBCRタンパクに置き換わることでABLミストイルポケット部位と結合できなくなり、常に活性状態となります。その結果、基質となるタンパクを過剰にリン酸化することで細胞内シグナル伝達が活性化され、細胞増殖経路と抗アポトーシス経路が亢進されます。
セムブリックスはBCR-ABLのABLミストイルポケットに対して特異的に結合します。それによってBCR-ABLのリン酸化を阻害し、下流のシグナル伝達を阻害することで、CML 細胞の増殖を抑制すると考えられています。
通常、成人には1回40mgを1日2回、空腹時に経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。
製品名 | セムブリックス錠20mg、同錠40mg | |
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規格単位(薬価) | 20mg1錠(5,564.50円) 40mg1錠(10,618.30円) |
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効能・効果 | 前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 8年後 |
ピーク時投与患者数 | 583人 | |
ピーク時販売金額 | 39億円 | |
製造販売(発売日) | ノバルティスファーマ(5月25日) |
8 タブネオスカプセル(アバコパン)
ダブネオスは、初の補体カスケードを標的とした顕微鏡的多発血管炎(MPA)および多発血管炎性肉芽腫症(GPA)治療薬で、日本で開発した経口投与可能な低分子の選択的補体C5a受容体拮抗薬です。
MPAとGPAは難病に指定されており、好中球に発現するミエロペルオキシダーゼ(MPO)およびプロテイナーゼ3(PR3)などに対する自己抗体の抗好中球細胞質抗体(ANCA)の産生を特徴としています。主に中小型血管炎に分類される全身性の壊死性血管炎であり、ANCA関連血管炎に分類されており、皮膚、腎臓、肺などさまざまな臓器にさまざまな重症度の病変を示します。
免疫活性時の経路で白血球などに存在する補体C3が活性化し、C5をC5aとC5bに分解します。C5aはC5a受容体と結合することで好中球細胞内のMPOとPR3が細胞膜表面へと移行してANCAと結合し、好中球はさらに活性化され、血管内皮細胞を傷害します。タブネオスはC5a受容体に対して選択的に拮抗し、C5aの作用を阻害することで、ANCA関連血管炎の症状を改善します。
通常、成人には1回30mgを1日2回朝夕食後に経口投与します。重大な副作用として、肝機能障害や重篤な感染症が報告されているので注意が必要です。
製品名 | タブネオスカプセル10mg | |
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規格単位(薬価) | 10mg1カプセル(1,403.90円) | |
効能・効果 | 顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 5年後 |
ピーク時投与患者数 | 5.8千人 | |
ピーク時販売金額 | 90億円 | |
製造販売(発売日) | キッセイ薬品工業(発売日未定) |
9 モイゼルト軟膏(ジファミラスト)
モイゼルトは、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬に分類され、PDE4阻害薬として初のアトピー性皮膚炎(AD)の適応を持つ薬剤です。
PDE4は多くの免疫細胞に存在しています。AD患者の末梢白血球ではPDE活性が亢進し、細胞内cAMPを特異的に分解することでcAMP濃度が減少し、さまざまな炎症性サイトカインやケモカインの産生が促進して皮膚の炎症が起こります。
モイゼルト軟膏を使用することでPDE4を阻害し、細胞内cAMP濃度を高めて炎症反応を抑制するため、ADに対して効果を発揮すると考えられています。
通常、成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布します。小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布し、症状に応じて1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができます。1%製剤の治療開始4週間以内に症状の改善が認められない場合は、使用を中止します。
製品名 | モイゼルト軟膏0.3%、同軟膏1% | |
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規格単位(薬価) | 0.3%1g(142.00円) 1%1g(152.10円) |
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効能・効果 | アトピー性皮膚炎 | |
市場規模 予測 |
ピーク時 | 10年後 |
ピーク時投与患者数 | 80万人 | |
ピーク時販売金額 | 53億円 | |
製造販売(発売日) | 大塚製薬(6月1日) |
※上記の薬価や効能・効果は全て収載時(2022年5月25日現在)のものです。
※ピーク時・ピーク時の投与患者数・ピーク時の販売金額は、販売製造元が市場規模予測したものです。
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