
地域包括ケアシステムの実現に向けて
厚生労働省が掲げる「地域包括ケアシステムの実現」。諸外国に例を見ないスピードで高齢化が進む日本で、薬局や薬剤師はどのようなポジションを取るべきなのか。薬剤師や薬局経営者自身も、まだはっきりと理解できていないことの方が多いのではないでしょうか。実は薬局ができることは少なくありません。積極的に多職種と連携して、患者さんの生活をどのように支援していくかという視点で地域貢献していくことが大切です。今回は地域包括ケアシステムが実現される社会の中で、薬局がすべき取り組みを提示します。
1 地域包括ケアシステムの現状と課題
日本人の平均寿命は女性87.32歳、男性81.25歳(2018年)となり、「人生100年時代」がまさに現実のものとなっています。日本の高齢化は他国に見られない勢いで進んでおり、例えば、65歳以上の人口の割合が7%から14%になるのにフランスは115年、英国は46年、米国は73年掛かると予測されているのに対して、日本はわずか24年で到達しています。
2020年現在、65歳以上の人口は3,592万人で総人口の28.5%を占め、国民の約4人に1人が高齢者となっています。それは今後も増え続け、2025年に人口の30%に達し、2042年には約3,900万人でピークとなりますが、その後も75歳以上の後期高齢者人口の割合は増加する見通しです。特に、約800万人を抱える団塊世代が75歳以上となる2025年以降は、認知症高齢者数もますます増加し、医療や介護需要も急拡大すると見込まれています。政府調査によると、2025年現在で65 歳以上の人口に対する要介護・要支援認定者は約20%の716万人、要介護3以上の人数は同7%の 252 万人に達すると推測されており、この大きな構造変化については、「2025年問題」として早くから指摘されてきたところです。
そこで厚生労働省は、この問題に、地域ぐるみで課題解決を図ろうと「地域包括ケアシステム」の構築に着手。2025年を目途に完全成立が急がれているところです。これは、「地域の実情に応じて、高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ、自立した生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい、および自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と定義されるもの。文字通り、住まいから医療・介護・予防・生活支援までの諸サービスが一体的に提供されるように地域内でサポートし合う体制を目指すものです。
この仕組みを地域内で実践するには、さまざまな関係機関や専門職種がサポートしあう仕組み(多職種連携)が求められます。具体的には医師をはじめ、看護師、薬剤師、保健師、介護士、理学療法士、ケアマネジャーなどで構成されますが、地域によっては医師などの人材不足も問題となっており、そうした地域では今後、どのように連携体制をつくっていくかが課題となります。
2 地域包括ケアシステムにおける薬局と薬剤師の役割とは
では、地域包括ケアシステムの中で、かかりつけ薬剤師・薬局はどのような役割を担うことになるのでしょうか。次の3点が挙げられます。
- 1. 適切な薬物治療の提供
- 2. 健康の維持・増進
- 3. 医療・介護などさまざまな相談窓口
まず、「適切な薬物治療の提供」ですが、これは薬の専門家として、在宅医療も含めた住民の薬物治療全体について一義的な責任を持って提供すること。「健康の維持・増進」については、OTCや健康食品などを提供し、その適正な使用促進による健康を確保すること。「医療や介護などさまざまな相談窓口」としては、地域の住民にとって最も身近で気軽にコンタクトできる医療拠点となり、医療・介護をはじめ、健康、栄養などまで幅広い内容に関する住民の相談窓口として機能することなどが求められています。
さらに、地域包括ケアシステムの枠組みの中では、かかりつけ医などと連携しながら、こうした機能を一体的に地域住民に提供することによって、最終的には住民の安心・安全な生活の確保に貢献していくということが主たる役割と言えます。
3 薬剤師が地域包括ケアシステムで活躍するために
では、薬剤師は地域包括ケアシステムのなかで、どのようなことに取り組むと良いのでしょうか。具体的には「薬薬連携」と「地域ケア会議への参加」の2つが挙げられます。
1. 薬薬連携
在宅医療への対応は、地域包括ケアシステムにおける薬剤師・薬局の主な機能の1つです。これは近年の急激な高齢化の進展により、ますます重要になっています。
高齢患者さんは、通院から入院、在宅までさまざまな治療過程を経るケースが少なくありません。患者さんにとっては、どの段階においてもシームレスで適正な薬物治療が継続されなくてはならず、そのためには病院薬剤師と薬局薬剤師の薬薬連携が重要となります。
特に、病院薬剤師と薬局薬剤師の連携において取り組むべきことは次のようなものがあります。
1. 退院時の服薬支援
患者さん本人、あるいは家族や介護サービスなどの従事者に対して、在宅訪問する薬局薬剤師が退院時の服用薬について正しく情報を提供する必要があります。
2. 残薬の整理
入院の際、患者さんがこれまで服用していた薬剤を服用薬として持ち込めないケースがあります。その場合、退院時には入院前の薬剤が自宅に残されたままになります。入院中に薬剤処方の変更などがあれば廃棄となりますが、入院中に変更がなかった場合は医療費抑制の観点から自宅にある薬剤を使用できるよう、薬局薬剤師が整理・介入することが望ましいです。
3. 退院後の処方調整
患者さんが退院して在宅治療となった後、状況に応じて処方調整が必要な場合もあります。例えば、食事・嚥下や自己管理の状況などの入院中の情報不足によるもの、在宅復帰後の生活環境・介護状況によるもの、患者さん本人の容態や認知機能の変化によるものが挙げられます。これらを加味しつつ、在宅移行後の主治医と相談しながら処方調整に関わることが期待されます。
これらの取り組みを行うために、薬局薬剤師が自宅における薬剤管理の中心となって服薬に関わる多職種全員に対して正しい情報を提供することや、地域包括ケアシステムにおけるチーム医療の一員として退院時カンファレンスに薬剤師が参加し、多職種間で患者さんに関する薬剤情報や服薬管理について認識共有を積極的に行うことが望まれます。
近年では、かかりつけ薬剤師・薬局制度により、一本化されたさまざまな情報を入退院時にかかりつけ薬剤師と病院薬剤師の間で引き継ぐ流れが整いつつあります。それによって、切れ目なく質の高い薬物治療の継続を実現することにつながっています。
2. 地域ケア会議への参加
地域ケア会議とは、包括的で継続的なケアマネジメント事業を効果的に行っていくため、市町村が設置する高齢者への適切な支援、および支援体制に関する検討をする場です。
主な機能として、次の5つが挙げられます。
- 自立支援に関する個別課題の解決
- 地域包括支援のネットワークづくり
- 地域の潜在課題の発見
- 地域づくり・資源開発
- 事業化・施策化などの政策形成
地域ケア会議のメンバーは医師や薬剤師、理学療法士、作業療法士など医療・介護の専門職や自治会、民生員など地域の支援者などで構成されています。会議では、課題解決に向けて多職種協働による具体的な助言を聞くことができます。これにより多職種との連携が深まり、患者さんの通院状況や薬剤情報なども共有できます。
薬局がこれらの取り組みを推進していくためには、既存の業務負担を軽減していくことがポイントとなります。薬学的専門性の低い業務や、IT機器に置き換えられるような業務領域を薬剤師の仕事から外していくことで、薬剤師ならではの専門性を生かした業務に集中できます。薬剤師の日常業務の負担を軽減させ、付加価値を生む業務にシフトしていくことが、地域包括ケアシステムの推進に寄与することになります。
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