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薬局経営

量から「質重視」へシフトし始めた薬局M&A
大手チェーンに変化の兆し、成功の秘訣は?

調剤報酬の引き締めや相次ぐ制度変更、そして新型コロナウイルスの感染拡大…。薬局の経営環境が厳しさを増し、売却に踏み切るケースが一層増える可能性が指摘されています。ただ、最近では店舗数の多い大手チェーンが買収先の基準を厳しくしたり、対象を厳選する方針を示したり、M&Aの市場に変化の兆しが表れています。そうした中、売り手はどのタイミングで決断を下すべきか。薬局のM&Aを巡る最近の動きと、いざという時に困らないためのノウハウをまとめました。 ※この記事は「CBnews」とのタイアップ企画です。

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活発な売りの背景に「業界不安」

2021年3月に決算を控える上場企業が、第2四半期決算の時期を迎えました。大手薬局チェーンの説明資料を見ると、M&Aに関する各社の戦略はさまざまで、この市場が転換期を迎えつつあると感じさせられます。

チェーン薬局にとって、M&Aは規模拡大の重要な手段で、特に2000~2010年代には各社の動きが活発でした。大手薬局チェーンのうち、主な上場企業の2015~2019年度のM&Aによる出店数を見ると、(株)アインホールディングス(各年4月期決算)が計443店、クオールホールディングス(株)が計262店、総合メディカル(株)が計138店(2019年度は同年12月まで)、(株)メディカルシステムネットワークが計79店、日本調剤(株)が計75店などです。

アインホールディングスは2019年4月期に134店をM&Aで出店し、総店舗数を1,132店に伸ばしていました。しかし、2020年4月期のM&Aは6店のみ。総店舗数も1,088店に減らし、一息ついた印象です。

売り手の動きはどうでしょうか。

薬局のM&Aを仲介する(株)CBパートナーズによると、薬局の売却に関する相談は2020年7~9月に計130件ありました。前年同期の計77件から急増し、いまだに動きが活発な様子です。

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報酬改定に法改正、そしてコロナ…

薬局の経営者が売却を決断するきっかけとして、かつてよく指摘されたのは、経営者の高齢化や後継者不在などでした。しかし最近は、業界の先行きへの不安の高まりが売却のきっかけになるケースが目立つといわれます。

薬局業界の不安を象徴する要素の一つが、近年の調剤報酬改定です。特定の医療機関からの処方箋の受付割合(集中率)が高い“門前薬局”や、大手チェーン薬局に対する引き締めを強め、重複投薬解消などの対人業務や地域医療への貢献実績などを評価するという流れが、今や既定路線です。

きっかけは、厚生労働省が2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」でした。

このビジョンのキャッチフレーズは、「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ-。厚生労働省はその中で、患者の服薬情報を一元的・継続的に把握し、調剤や在宅訪問などに24時間対応する「かかりつけ薬局」や、それらの「かかりつけ機能」に加えて住民の健康維持・増進まで支援する「健康サポート薬局」という新たな概念を打ち出しました。

門前薬局を含む全ての薬局が2025年までにかかりつけ機能を持つことを目指し、要介護状態になる割合が高い85歳以上に、「団塊の世代」の全員が到達する2035年を見据え、立地の面でも地域への移行を促すのが国の方針です。

さらに、2019年には医薬品医療機器等法が改正されました。それに伴い2021年8月には、特定の機能を整備した薬局を「地域連携薬局」(図1)や「専門医療機関連携薬局」として都道府県知事が認定する新しい制度が施行されます。

図1 地域連携薬局のイメージ

薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会(2020年10月21日)の資料を基に作成

国の大掛かりな政策が立て続けに打ち出され、薬局をどう運営していくべきか戸惑うトップも多いとみられます。

そんな中、2020年には新型コロナウイルスの感染が各地で拡大しました。3月以降は、受診控えの影響で多くの薬局が売上を減らしたとされ、そのためか、小規模な薬局からの売却に関する相談が増えているという大手チェーンもあります。

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薬剤師“不足”も売却を加速

もう一つ、薬剤師不足が薬局の売却を加速させてきたともいわれています。

ただ、OECD(経済協力開発機構)の「health data 2020」によると、人口1,000人当たりの薬剤師数は、日本は2018年現在1.9人。データがある2000年以降、日本ではこの数字が増え続けていて、2番目のベルギー(1.25人)や3番目のスペイン(1.19人)を今や大きく突き放し、OECD 加盟国の中で断トツです。それなのに薬剤師が不足するのはなぜでしょうか。

一つには、薬剤師だけでなく薬局もハイペースで増えているためだと指摘されています。日本の薬局数は2008年度末の時点で5万3,304店でしたが、2018年度末には5万9,613店と6万店に迫りました。この10年間で1割超増えた計算です。

厚生労働省が2019年9月、中央社会保険医療協議会に示したデータによると、薬局706店に勤務する薬剤師の人数(常勤換算)は1店当たり平均2.74人で、「1.1~2人」の薬局が最も多いことが分かりました(図2)。

図2 薬局に勤務する薬剤師数の常勤換算人数

※非常勤職員の常勤換算は、薬局の1週間の所定労働時間を基本として小数点第1位までで算出(小数点以下第2位を切り捨て)。

例:1週間の所定勤務時間が40時間の薬局で、週4日(各日5時間)勤務の非常勤職員1人いる場合

非常勤職員数(常勤換算)=(5時間×4日×1人)÷40時間(週所定労働時間)=0.5人

中央社会保険医療協議会・総会(2019年9月25日)の資料を基に作成

常勤の薬剤師が1人しかいない薬局の割合は、人口密度が低い都道府県で高くなる傾向を示すデータもあり、特にそうした地域では、人材確保に苦戦する薬局が売却を検討し始めるケースがこれから増えるかもしれません。

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ドラッグストアは活発、大手チェーンは「質重視」へ

それでは買い手側の動きはどうでしょうか。ドラッグストア大手の(株)ココカラファインは2020年11月12日、兵庫県や大阪府内などで調剤薬局やドラッグストア70店ほどを運営する(株)フタツカホールディングス(神戸市中央区)の全株式を同日付で取得したと発表しました。また、ウエルシアホールディングス(株)は2020年3月以降、高知県や群馬県、愛媛県内のドラッグストア・調剤薬局の運営会社の株式を相次いで取得するなど、ドラッグストアの動きは活発です。

ただ、大手薬局チェーンの間には「M&Aはピークを過ぎた」という受け止めが広がり始め、動きに変化の兆しが見えます。

これまでM&Aを中心に規模を拡大してきたクオールホールディングスは2020年11月9日に公表した第2四半期の決算説明の動画で、M&Aのターゲットにする薬局の年商の基準を厳格化したことを明らかにしました。それによると同社では、▽売上高と規模が社内の基準を満たすチェーン薬局▽グループとの相乗効果(シナジー)を見込める薬局-をこれからのターゲットに想定しているということです。

調剤薬局のマーケット全体に占める上位10社のシェアが約19%にすぎず、同社では、マーケットの集約化が中長期的には進むとみています。しかし、近年の調剤報酬改定などの影響で薬局の収益力がおしなべて伸び悩む状況に配慮し、大型案件に投資を集中させます。

一方、日本調剤は同じ日、自力出店とM&Aを組み合わせたバランスの良い出店を継続させる一方、買収の対象を厳選する方針を示しました。M&Aの案件が増加傾向にあるためだということです。2019年度にはM&Aで過去最多の30店を出店していました。ただ、自力出店を基本に規模拡大を進めるのが同社のスタンスで、M&Aでは買収先の規模と質をもともと重視してきました。

また、アインホールディングスは近年、買収対象の年商の基準を段階的に引き上げていて、今後は、より確実で大型の案件に投資を集中させるとしています。

一般的には、薬局のM&Aではこれまで、地域で高いシェアを獲得しているような薬局が買い手に注目されてきました。

そして最近では、売上や収益力が高いことに加え、▽複数の医療機関からの処方箋を受け付けて集中率が低い▽処方元の医療機関に後継者がいて引き継ぎ体制が整っている▽社員教育ができている-などを重視する傾向が強いといわれています。

買収対象を厳選する動きが買い手に広がれば、薬局のM&Aが買い手市場の色合いを強め、売り手側は一層「質」を求められるかもしれません。

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「いざという時」をいつも念頭に

売り手を取り巻く環境が変わりつつある中で、薬局のM&Aをいかに成功させるか。

CBパートナーズの井上陽平社長は、事業譲渡という選択肢をいつも念頭に置き、検討を始めたら早めに決断することの大切さを強調します。たとえトップが若くても、病気などで業務を行えなくなるようなリスクは常にあり、売り時を逃すと有利に交渉を進めるのが難しくなりかねないからです。

「リスクを他人事と捉えるのではなく、どのような状況になったら売却を検討し、M&Aでどのようなゴールを目指すのか、いざという時のために常に考えておく必要がある。事業譲渡を考えておくことは、事業を継続していくことと同じくらいに大切」。

ただ、行政への根回しのやり方など、薬局のM&Aには特有のノウハウや知識が求められます。それだけに、どの業者に仲介を依頼するかが成否を分けかねないということです。井上社長が挙げる最も重要な見極めのポイントは、医療界の動きや慣習にその業者がどれだけ精通し、これまでどれだけの実績を上げてきたか。

例えば、これまで連れ添ってきた処方元の医師に売却の決断をいつ、どう伝えるかは、薬局のM&Aに特有の、とても大切で繊細な課題です。

「それを『問題ない』と簡単に受け止める業者には要注意。実際に相談してみれば、それへの対応の仕方が判断材料になる」と井上社長は話しています。

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