
これだけは知っておきたい
昨今、注目されるバイオ医薬品。薬局での取り扱いも増え、薬剤師はもちろん、薬局経営者の方々も発注業務や患者さんとの会話の中で、バイオ医薬品についての知識をもっておいたほうがいいケースが増えているのではないでしょうか。今回は薬に携わるならこれだけは知っておきたいバイオ医薬品の基礎知識をご紹介します。
1 そもそも、バイオ医薬品ってなに?
バイオ医薬品とは、遺伝子組換え技術や細胞培養技術から製造したタンパク質を有効成分とする医薬品を指します。もともとは「生体内で分泌されるタンパク質を医薬品にすること」を目的に開発が進められてきたバイオ医薬品ですが、昨今は免疫疾患などに関連する分子と特異的に結合する抗体医薬品も多く開発されています。化学反応で開発製造される従来の低分子医薬品と呼ばれる薬では十分に解決できなかった疾患への効果と、アンメットメディカルニーズの解消への期待がされています。アンメットメディカルニーズとはいまだに治療法の開発が進んでおらず、治療薬のない病気や満足度の高い治療を行えない病気に対する医療ニーズのことです。
薬効が高く副作用も少なく、適用できる病気の利用範囲も広いというメリットがありますが、一方で種類が増え続けるバイオ医薬品の製品名や特徴を覚えるのは大変です。そんな時は国際一般名の語幹を確認しましょう。由来や薬理作用に応じて特定のステムが含まれているので、分類や作用がわかるようになっています。
引用:これだけは知っておきたいバイオ医薬品(一般社団法人 くすりの適正使用協議会)
医薬品は、WHOにより国際一般名称(International Nonproprietary Name:INN)が定められており、抗体医薬品には-mab(monoclonal antibodies:モノクローナル抗体)というステムを付けることが義務化されています。さらにサブステムとしてモノクローナル抗体が由来する種や、標的とする疾患や組織を示すことになっています。これにより、標的や抗体のタイプを一目でチェックすることができます。また、日本で承認される医薬品には、日本医薬品一般名称(JAN:Japanese Accepted Name for Pharmaceuticals)が付きます。JANはINNの読み方と一致することが多く、これはJANがINNとの統合性を考慮して決められることに由来します。
(例)○○キシマブ(xi + mab)→キメラ型モノクローナル抗体、○○ズマブ(zu + mab)→ヒト化モノクローナル抗体
引用:これだけは知っておきたいバイオ医薬品(一般社団法人 くすりの適正使用協議会)
2 低分子医薬品とバイオ医薬品の違い
低分子医薬品とバイオ医薬品には、次のような違いがあります。
引用:これだけは知っておきたいバイオ医薬品(一般社団法人 くすりの適正使用協議会)
血液内での薬効や濃度が半減する時期を示す血中半減期が長いのは、IgG やアルブミンに由来する性質です。
低分子医薬品は、段階的な化学合成の工程を経て生産される医薬品を指します。分子が小さく、ごく少数の機能的な分子グループからなる比較的単純な構造をした有機化合物です。一方、バイオ医薬品は、低分子医薬品の製造に用いられる単純な化学合成工程に比べて、変化に敏感な生物を用いた製造工程で作られているため、製造工程における様々な因子の影響を受けます。大きくて特性解析が難しい複雑な分子から成っており、製造工程でのわずかな変化によって特性が変わってしまうことも起こり得ます。また、非常に複雑な製造工程であることから、製品の安全性及び有効性を常に維持するため、高い精度をもって、定められた規格へ適合することが求められています。低分子医薬品では約50種類の工程内管理試験が行われているのに対し、バイオ医薬品は約250種類の工程内管理試験が行われています。
さらに、最近は「バイオシミラー(バイオ後続品)」という言葉をよく耳にすると思います。国内ですでに新有効成分含有医薬品として承認されたバイオ医薬品と同等・同質の品質、安全性、有効性のある医薬品として、異なる製造販売業者により開発される医薬品のことを指します。薬局ではこのバイオシミラー(バイオ後続品)の取り扱いが増えており、薬価収載時には先行品の薬価(※)の約7割で供給されることから、医療財政、および患者さん負担の軽減が期待されています。
※新薬創出など加算がある場合はこれを除く
3 バイオ医薬品を調製・保管する際の注意点とは
バイオ医薬品の調製に当たる注意事項は、基本的に一般の医薬品と同じです。バイオ医薬品の中にも、凍結乾燥品など調製が必要な注射剤があります。激しい振盪や撹拌をしない、他剤と混注しない、といった注意点に加え、指定された希釈液を用いて適切な濃度になるように調製することが重要です。所定の調製方法を逸脱すると、凝集や不溶性物質の析出が起こる可能性があるため注意が必要です。タンパク質の分解・重合・変性により活性が変化する可能性があり、これが有効性・安全性に影響することもあります。調製後に投与延期になった場合などでは、溶解後や輸液などで希釈した場合の安定性にも注意を払う必要があります。
引用:これだけは知っておきたいバイオ医薬品(一般社団法人 くすりの適正使用協議会)
温度や光が品質に影響を与える可能性があるバイオ医薬品の保存条件は、「凍結を避け冷所保存」「2~8℃」「遮光」などであることが多いです。品質が変化することによって有効性や安全性が損なわれてしまう可能性があるため、保管条件を逸脱しないよう細心の注意を払いましょう。バイオ医薬品の安全性は、実保存温度、実保存期間で実施された試験成績に基づいて設定される有効期間と、加速および苛酷条件での試験を実施することで保たれます。苛酷試験のデータは、例えば輸送中など、定められた保存条件以外のケースに医薬品が偶発的に置かれた場合において、製品に悪影響があるかどうかを判断する材料になります。保管方法の逸脱が起こりやすいケースとして次の2つが挙げられます。
- ・薬剤を常温で放置してしまった
- ・冷蔵庫内の温度が上がってしまった
これらのケースには十分に注意しましょう。また、有害反応にも注意が必要です。代謝されるとアミノ酸に分解され、標的分子への特異性が高い性質をもつバイオ医薬品は、低分子である一般の医薬品と比べて、標的分子を介さない有害反応は出にくいとされていますが、有害反応がないという認識をもつのは危険です。次の3つに起因する有害反応が起こる可能性があります。
- 有効成分が持つ複数の薬理作用
- 有効成分の過剰な薬理作用
- 標的分子が持つ複数の生理機能
また、Infusion reaction (急性輸液反応)や免疫原性に起因する免疫反応などの有害反応も報告されています。
4 バイオ医薬品の管理指導についてのポイントとは
医薬品を取り扱ううえで第一に考慮しないといけないのは、危険性や安全性のケアです。調製や保管については、しっかりとその認識を持って薬局業務に取り組む必要があります。次に考慮するべきポイントは、やはり患者さんへの管理指導ではないでしょうか。特にバイオ医薬品の自己注射は、管理指導がポイントになります。バイオ医薬品の自己注射を行うことになった患者さんやそのご家族は、低分子医薬品を自宅で服用することとは違った不安を抱えています。薬の安全性をしっかりと伝えたうえで、保管方法や投与方法、廃棄方法、製品の異常や体調変化があった場合の連絡方法をしっかり説明するようにしましょう。前述のとおり、バイオ医薬品の保管方法は「凍結を避けられる冷所」や「2 ~8℃」「遮光」と規定されるものがほとんどなので、「冷蔵庫内でも吹き出し口付近に置いておくと凍結してしまうこともあるので注意が必要」と伝えることも必要です。また、特に夏場は持ち歩きの途中の温度管理も重要なので、患者さんにクーラーバッグを用意していただくといった工夫も検討しましょう。
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