
薬局業務の自動化による
昨今、薬局業務を自動化することで生産性を向上させようとする動きが活発になっています。たとえば、散薬調剤ロボットの導入などにより調剤オペレーションが自動化されることで、薬剤師は調剤された薬が正しいかどうかの確認や、服薬指導に集中できるようになります。こうした調剤業務の自動化により、薬局には「調剤過誤、医療事故が減る」「患者さんの待ち時間が減る」など、さまざまなメリットが期待できます。この機会に、薬局業務と向き合い、本来の薬剤師の仕事とは何かを今一度考えてみてはいかがでしょうか。
1 進む調剤業務自動化とその背景
大手ドラッグストアチェーンが、2019年から調剤業務の自動化の実験を開始したというニュースをご存知の方も多いでしょう。
実験店舗に7種9台の機械を導入した結果、待ち時間が27分から18分へと削減されたという結果も得られており、今後は大手チェーン各社が自動化を加速させる可能性があります。
このように調剤業務の自動化が進む背景には、どのような理由があるのでしょうか。
まず挙げられるのが、2016年から始まった「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」の制度。1人の患者さんの服用するお薬について、すべて同一の薬局で同じ薬剤師が担当することにより、服薬情報の一元的・継続的な把握と薬学的管理・指導を行うというもので、多剤・重複投薬の防止や残薬解消、医療費の適正化を図る意図があります。厚生労働省は2025年にはすべての薬局をかかりつけ薬局にすることを目指しているため、調剤薬局はそれまでにかかりつけ薬局として機能できるよう、環境を整えねばなりません。
かかりつけ薬剤師は一人ひとりの患者さんに対してより手厚いケアを継続的に行う必要があり、医療に関わる地域活動にも参加する必要があるため、他の業務工数の圧縮が急務。そこで、調剤業務の自動化・機械化が加速し始めたのです。
さらに、2020年9月に施工された改正薬機法では、薬剤師から患者さんへの服薬フォローが義務化されています。
これからの薬局は、調剤業務が重要視されてきた従来の方向性から、薬剤師が「患者さん自身」「罹患している疾病」「服用するお薬」という3つの特性に合わせ、より適切なフォローアップを行う医療機関として機能することを速やかに求められているのです。
2 機器メーカーが語る調剤業務自動化・機械化の具体例
大手薬局チェーンを中心に進んでいる調剤業務の自動化。
実際に調剤業務の自動化・機械化には、どのような機器が取り入れられているのでしょうか。
医療機器や医療システムの製造販売を行う大手メーカー「株式会社タカゾノ」の営業担当者にお話を伺うことができました。
導入が多い機器は?
散剤・錠剤分包機である「Crestage(クレステージ)」シリーズが最も人気ですね。分包機というのは、患者さんが薬を飲みやすいように1回分ずつ袋にまとめて包装する機械を指します。全自動のCrestage-pro(クレステージ プロ)だと、粉を均すところからすべて自動なので、非常に効率的です。
次いで、錠剤供給機。これは除包した錠剤を用法毎に一包にまとめるものですから、分包機とセットで導入される薬局さんが多いです。
最近需要が高まっているのが、調剤監査システムですね。調剤の履歴・画像を記録することができるので、現場での『安心・安全』を提供し業務効率化につながります。
導入までの流れを教えてください。
お問い合わせの後、まずは具体的ニーズをお聞きし、綿密な処方分析を経て、最適な機器のご提案を行います。
タカゾノでは、実際の現場を拝見し、よりマッチしたご提案を行うため、必ずご訪問してヒアリングやご提案を行っています。
その後、お見積りをご提示し、ご契約、導入といった流れとなります。オプションでメンテナンスパックをお付けできるのですが、7割以上が加入されます。ですから、導入されたあとも定期的にメンテナンスを通じてご相談に乗っています。
導入相場は?
薬局ごとにニーズや予算は異なりますし、100万~1,500万円と、機器によって値幅にかなり開きがありますので、一概には言えませんね…。
直購入が難しい場合、リースによる導入も可能ですから、そちらを利用される場合も多いです。
導入後の声は?
ありがたいことに多くの薬局経営者の方からお喜びの声をいただいています。
患者さんとのコミュニケーションの時間が増やせて満足度が上がっているのを感じる、地域医療への貢献度合いが増した、といったお声をいただけているのが特に嬉しいですね。
機器の導入によって効率化やミスの軽減を実感され、他の機器を導入していただけるケースも多いです。
また、「すごくいいから検討してみては」と、ほかの薬局をご紹介していただくこともあります。
調剤自動化機器を選ぶ際に留意すべき点は?
こんなことを言うのも何ですが、現時点で機器自体にメーカー毎の大きな違いはありません。ですからなおさら、薬局ごとにマッチしたものをしっかり選んでいただきたいなと思います。
処方分析を綿密に行ったうえで機器選定をしてくれるところ、本当に必要な機械とそうでないものをキチンと見極めて提案してくれるところ、メンテナンスがしっかりしているところ。そういったところから導入していただくのがお勧めだと思います。
自動化機器は大きな買い物ですから、「導入したあと」が肝心です。故障や不具合で想定外の費用が掛かってしまうこともあり得ますから、保証やメンテナンスについては特にしっかり確認して選ぶべきかと思います。
タカゾノでは、現在予防保守の機能を持つ機器を開発中です。機器自体に不具合が起きる前にメンテナンスを施せるよう、検討しています。薬局現場の声を聞き、製品開発に結び付ける力が、いずれ大きな差となるかもしれません。ですから、薬局が自動化によってより患者さんとのコミュニケーションを密にするように、私たちもより深く薬局現場の声に耳を澄ませ、ニーズを形に結びつけるお手伝いをしていきたいと思っています。
3 調剤業務自動化・機械化で経営者が見据えるべきこと
調剤業務の自動化のニーズは、実は5年ほど前から増えていたとタカゾノ営業担当者は語っていました。これは、前述した2016年の「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」の制度が始まった時期と被ります。かかりつけ薬剤師として指名される薬剤師が増えれば、通常の「薬剤服用管理指導料」よりも点数が高く設定されている「かかりつけ薬剤師指導料」を得ることができ、同じ患者数であっても利益は増加します。また、地域医療に貢献する薬局が評価される「地域支援体制加算」も利益増の機会といえるでしょう。その対応工数を捻出するために、自動化を導入しているとみることができます。
調剤業務の他に、自動化・効率化できる薬局業務として挙げられるのが、医薬品卸売会社(以下、卸)との価格交渉や医薬品の在庫管理などです。メディカルシステムネットワークが運営する薬局経営支援サービス「医薬品ネットワーク」に加入すると利用できる自動発注システム「薬VAN」や、卸との価格交渉を代行する「医薬品購入サポート」も、かかりつけ薬局化への業務の工数を捻出するということでは、今回ご紹介した自動化ツールに近しい導入メリットがあると言えます。薬局に求められる役割が複雑になっていく中で、これらのツールをうまく活用しながら効率的に運営していくことが、薬局経営者に求められるようになります。
かかりつけ薬局・薬剤師の制度や薬機法の改正が示すように、これからの薬局には服薬フォローや地域支援体制の強化が求められています。調剤業務自動化を、単なる効率化や薬剤師雇用のコスト削減の手段として捉えるのではなく、薬局に求められていることを実現化・進化させるための手段のひとつとして見据えることが大切です。
「患者さんから選ばれる薬局」になるために、自動化で得られた時間や人員をどう有効活用し、価値向上していくかが、今後の薬局経営の鍵を握る一つのファクターではないでしょうか。
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