
薬剤情報「リアルタイムで共有」も視野
患者さんがどの医療保険に加入しているのか、マイナンバーカードのICチップなどで把握できる「オンライン資格確認」の運用が2021年3月に始まります。薬局や医療機関の業務効率化だけでなく、過去に受けた特定健診の結果や薬剤情報など、患者さん一人一人の健康・医療分野のデータを全国の薬局や医療機関で共有するための足掛かりになる仕組みです。将来的にデータの蓄積が進み、裾野も広がれば、質の高い医療を効率的に提供できるようになると期待されていますが、医療現場では、オンラインでの資格確認に必要なシステムの導入がいまひとつ進みません。そのため厚生労働省は、薬局や医療機関への補助を特例で追加するなどてこ入れを強化しました。新たな仕組みは薬局をどう変えるのか。最新情報を整理しました。 ※この記事は「CBnews」とのタイアップ企画です。
1 「新たな価値を提供できるようになる」
「“患者さん本人の私書箱”から特定健診やレセプトのいろいろな情報を閲覧できるようになれば、薬局はもっと新しい価値を提供できるようになる」。
オンライン資格確認の運用開始に向けて準備を進めている厚生労働省保険局の山下護・医療介護連携政策課長は2020年12月10日、(株)CBホールディングスが開いたオンラインセミナーでこう訴えました。
2021年3月に運用が始まるオンライン資格確認は、患者さんのマイナンバーカードに組み込まれているICチップや健康保険証の記号・番号を介して、患者さんがどの医療保険に加入しているのか、薬局や医療機関がリアルタイムで確認できるという仕組みです。転職や退職などで加入先の医療保険が変わっていても、全ての医療保険者をカバーする審査支払機関のデータベース(“患者さん本人の私書箱”)に電子的に問い合わせることで正しい加入先をすぐ確認できます。医療現場では、それによって「資格過誤」を防ぎ、レセプトの返戻を減らすなどのメリットを見込めます。
そしてもう一つ、オンライン資格確認には大切な役割があります。山下課長はセミナーで、これから国内で本格化するデータヘルスの基盤の一つがオンライン資格確認の仕組みだと説明しました。
データヘルスとは、自分自身の健康・医療の情報を患者さんが活用して健康づくりに励むとともに、薬局や医療機関と情報を共有して、一緒に治療に取り組むための基盤を作るという取り組みです。政府の経済財政諮問会議が2020年6月22日に開いた会合では、加藤勝信厚生労働相(当時)が、2年後の2022年夏までをめどに「データヘルス集中改革プラン」に取り組む方針を示しました。
集中改革プランは、▽患者さんが過去に受けた特定健診の結果や「薬剤情報」などを全国で共有する仕組みの拡大▽電子処方箋の仕組みの構築▽患者さんが自分自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大-という3つの「ACTION」が柱です(図1)。
図1 データヘルスの集中改革プラン
経済財政諮問会議(2020年6月22日)の資料を基に作成
加藤氏はこの日、オンライン資格確認システムとマイナンバーカードという2つの枠組みを最大限に活用し、3つのACTIONを進める考えを示しました。
2 薬剤情報の保存期間延長も視野
薬剤情報には、どこの医療機関でいつ、どのような薬剤が処方されたかなどのデータが含まれます。2021年10月以降は、それらがレセプトから毎月抽出され、患者さんの被保険者番号とリンクする形で審査支払機関のデータベース(“患者さん本人の私書箱”)に蓄積されていきます。
マイナンバーカードの健康保険証を患者さんが使っていれば、全国の薬局や医療機関では、オンライン資格確認用のカードリーダーでICチップを読み取り、過去3年分の薬剤情報を共有・閲覧できるようになるのです。患者さんの同意を毎回得るという条件付きですが、お薬手帳では拾い切れない重複投薬を薬剤情報から見つけ出し、解消につなげられると期待されています。
国は、薬局で共有・閲覧できる情報を順次拡大する方針で、2022年夏ごろには過去に受けた手術や移植、透析などのデータが加わる見通しです。さらに、厚生労働省は2020年11月、血圧測定のデータや喫煙歴、メタボリックシンドロームの基準に該当するかどうかといった特定健診のデータも過去5年分を共有できるようにすることを明らかにしました。
これらの情報の閲覧は当初、患者さん本人や医療機関に限る方針でしたが、薬局でも共有すべきだという声を受け、転換しました。薬剤情報などに先駆け、2021年3月から閲覧可能になる見通しです。
とはいえ医療現場では、レセプトベースのデータを毎月抽出して蓄積する仕組みの限界も指摘されています。そうした仕組みだと、レセプトを月末に締めた後の最新の薬剤情報を閲覧できず、重複投薬の解消を薬局がリアルタイムで提案するのは難しいからです。
ただ、厚生労働省では、将来的にそうした課題を解消するのはそれほど難しくはないとみています。山下課長がセミナーで明らかにしたのは、月ごとのレセプトのデータだけでなく、処方箋を発行する過程で医療機関が作る情報そのものをデータベース(“患者さん本人の私書箱”)にそれぞれ集め、リアルタイムで共有するという方法です。
山下課長は「処方情報をリアルタイムできちんと共有できるなら、お薬手帳は薬局にとってそれほど重要な情報ツールではなくなると思う」と話しました。
さらに、今のところは3年とされている薬剤情報の保存期間を延長したり、40~74歳が対象の特定健診だけでなく、全ての労働者が毎年受ける定期健診のデータに情報共有の裾野を広げたりする構想もあるということです。
匿名化されたビッグデータをリアルタイムで集め、活用できるようになれば、医療の姿を大きく変える可能性を秘めています。例えば、2022年夏ごろに運用が始まる電子処方箋のデータを匿名化し、インフルエンザ治療薬の処方件数が多い地域を割り出せば、どのエリアで感染が拡大しているのかをリアルタイムで実観測し、いち早く対策を打てるようになるかもしれません。
3 現場の動きはいまひとつ、国がてこ入れ強化
厚生労働省は、オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーの導入の申し込みを2020年8月に始めました。薬局や医療機関による導入率を2021年3月中に6割程度にするのが当面の目標ですが(表)、肝心の医療現場の動きがいまひとつです。
表 全体スケジュール
デジタル・ガバメント閣僚会議(2019年9月3日)の資料を基に作成
厚生労働省によると、2020年11月8日時点でカードリーダーの導入を申し込んだ薬局は1万7,292カ所で、全薬局の28.9%にすぎません。病院や医科と歯科の診療所でも伸び悩んでいて、それらを合わせた全体では3万8,632カ所(16.9%)と2割を割り込みました。
それに先立ち、厚生労働省は2020年10月30日、カードリーダーの普及を後押しする「加速化プラン」を打ち出しました。2021年3月末までに導入を申し込んだ場合に限り、カードリーダーの導入コストに対する補助を特例で追加するという内容です。
厚生労働省は、カードリーダーの導入やレセプトコンピューターシステム(レセコン)の改修費などをこれまでも補助してきました。補助の対象は、(1)顔認証付きカードリーダーと専用パソコンの導入(2)薬剤情報などの最新データをレセコンや電子カルテに取り込むための改修-の費用で、回線の工事費なども含まれます。
薬局への補助は本来、大型チェーン(処方箋の受付がグループ全体で月4万回以上)の薬局は21.4万円、それ以外は32.1万円が上限ですが、加速化プランでは、大型チェーンかどうかを問わず42.9万円まで実費を特例で補助します(図)。
図2 加速化プランを踏まえた追加的な財政補助
厚生労働省では、2021年2~3月に特例補助の交付申請を行えるように準備を進めていて、加速化プランが決まる前に申し込みを済ませていたケースも補助の対象にするとしています。ただ、期限までに申し込んだものの、2021年4月以降にいったんキャンセルし、その後に再度申し込むようなケースは特例補助の対象にならず、2023年3月まで本来の補助を申請できます。
4 メディシス全薬局導入へ、返戻解消に期待
(株)メディカルシステムネットワークでは、全国に400店強ある全薬局で顔認証付きカードリーダーの導入申し込みを2020年12月上旬までに完了しています。
オンライン資格確認の運用が始まると、医療保険への加入状況をすぐ確認できるだけでなく、医療保険証の記号・番号などの情報が自動で入力されるのでレセプトの返戻の解消や未収金の発生防止、受付業務の効率化などのメリットを見込んでいます。
中でも、現場の関心が高いのは、特定健診の結果や薬剤情報などのデータの活用です。これらのデータを将来、リアルタイムで共有・閲覧できるようになれば、患者さん一人一人にベストな処方を提案できる可能性があるからです。
一方で、不安を訴える声もあります。オンライン資格確認の概要を患者さんに毎回説明し、情報閲覧の同意を得なければならず、果たしてどこまで円滑に対応できるか分からないというのが最大の懸案です。
センシティブな医療情報にリンクするマイナンバーカードを取り扱うだけに、スタッフ教育も課題です。そのためメディシスでは、運用手順のマニュアルを今後、整備することにしています。
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