
2020年改正薬機法から考える
2019年4月に発出された「0402通知」は、これまで明確化されていなかった非薬剤師の調剤補助に関する公的な見解が示されたことで注目を集めました。2019年12月に改正薬機法が公布となった今、0402通知で非薬剤師の調剤補助業務の範囲が示された背景を再確認し、調剤薬局経営者が店舗経営に関して取り組むべき点を考えてみたいと思います。
目次
1 0402通知と改正薬機法が示す調剤薬局の道筋
0402通知は、改正薬機法で「住み慣れた地域で患者さんが安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局の在り方の見直し」として掲げられた薬剤師・薬局機能の強化、つまりは対人業務の強化に備え、非薬剤師の調剤補助業務の範囲を明示し、対物業務を効率化・軽減していくための通知と見ることができます。
対人業務とは、患者さんに対する服薬指導を通じた効果の確認、副作用の有無の確認、残薬の管理、医師へのフィードバック、在宅訪問といった業務のこと。改正薬機法では対人業務の強化として薬剤師が必要に応じて投薬した後の患者さんの服薬状況の把握・服薬指導をすることが義務づけられており、それを恒常的に行うのが「かかりつけ薬局・薬剤師」であり、厚生労働省が目指すビジョンなのです。
改正薬機法に伴い、薬剤師の対人業務強化を進めなければならない薬局経営者にとって0402通知は、非薬剤師が担える領域が明示されたことをメリットに感じる方が多いようです。しかし、大手薬局チェーンのように調剤自動機器の導入推進によって非薬剤師に対物業務をシフトしていくというのは、個人経営の薬局にとって決して容易ではありません。通常業務を行いながら、非薬剤師が対物業務の領域を広げるための指導育成を行うことが困難な場合もあるでしょう。
2 機器導入で仕組みを変化させる ~0402通知ですべきこと
これまでは非薬剤師による薬のピッキング業務禁止はもとより、調剤室に入れるのは薬剤師のみであると厳しく解釈する向きもあるなど、受け手によって開きがあった非薬剤師の調剤に関わる業務範囲。0402通知では「薬剤師の指示と最終確認を必須条件として調剤補助業務を可とする」といった公的見解が述べられました。しかし、これは非薬剤師が対応可能な項目を明示した通知ではありません。受け取り方を誤ると薬剤師法第19条の『薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない』を犯す可能性があります。
特に、「軟膏剤・水剤・散剤などの医薬品を直接計量、混合するのは薬剤師の監視下であってもこれまで同様に不可だが、調剤機器の活用を妨げるものではない」という箇所に調剤薬局が変化すべき方向性のヒントがあるのです。
薬剤師を対人業務に注力させるため、非薬剤師を調剤補助業務に積極起用したいというのは、多くの薬局経営者が思うところでしょう。ですが、この薬剤は非薬剤師が対応可、この薬剤は不可…というように薬剤の種類によってフローが異なると、結果的に薬剤師の担う業務量を軽減するのは困難になります。
また、薬剤の種類によって異なるフローは調剤過誤のリスクを上げることにもなりがちです。
軟膏剤や散剤の計量、混合用の調剤機器を導入し、ピッキングを非薬剤師に任せることによって、調剤業務にかかる薬剤師の負荷は、調剤機器への入力作業と最終確認に限られます。薬局スタッフ間での調剤業務の棲み分けが確立し、目指す対人業務への注力化を加速する助力となるでしょう。
調剤自動化を検討する際は、扱う量が多い薬剤の調剤から自動化をと考えがちですが、0402通知を受け、今ある人材リソースを調剤業務に有効活用することを考えれば、非薬剤師が扱えない薬剤を調剤機器化する、という選択肢が現れるのです。
ほかにも、調剤鑑査は専用の調剤鑑査システムを用いることで過誤防止やスピードアップに繋がりますし、薬局経営支援サービス「医薬品ネットワーク」に加入すると利用できる自動発注システム「薬VAN」は煩雑な在庫管理や発注業務を自動化することができます。
厚生労働省も保険証入力の効率化・資格過誤によるレセプト返戻の減少のためにオンライン資格確認の導入を推進しており、自動化の波は薬局業界全体で加速化する見込みです。
薬剤師と非薬剤師の雇用数、扱う薬剤の種別と量など、薬局それぞれの傾向によって変化すべき仕組みがどこなのかは異なります。この機会に自店舗の調剤フローを最適化してみてはいかがでしょうか。
3 調剤薬局の取り組み 〜0402通知ですべきこと
0402通知で拓かれたかかりつけ薬局への道。これは、自動化機器やシステムの導入で業務効率化と仕組み変革を進める一方、非薬剤師・薬剤師のパフォーマンスを最大化するための教育も並行することで最短ルートが見えてきます。実際の調剤薬局現場でどのような教育・研修が取り入れられているのでしょうか。全国に426店舗(グループ 2020年12月31日現在)を構える「なの花薬局」に話を伺いました。
0402通知を受けて、取り組んでいることを教えてください。
0402通知に従った取り組みを実施するために、店舗ごとに業務手順書を整えました。その手順書に沿って、非薬剤師と薬剤師を教育しています。
薬剤師、非薬剤師それぞれに「作業可能な業務一覧表」を用意し、共有することで、スタッフ全員がそれぞれの役割を理解できていると思います。店舗によって規模が異なるため、その店舗にあった業務分担を明確に提示することがポイントです。
非薬剤師の教育をどのようにしていますか?
非薬剤師には、NPhA(日本保険薬局協会)が開催する調剤アシスト研修(全5章)を受講してもらうことを基本方針としています。eラーニングで場所を選ばず、受講できるのでとても便利ですよ。研修を受けることで、やっていい業務とやってはいけない業務を学んでもらうことが狙いです。
なお、なの花薬局では、薬局長にも調剤アシスト研修を受講してもらっています。働いてくれている薬剤師の中には、調剤室に非薬剤師が入ってくることに不安を持つ人もいました。前述の研修を受けてもらうことで、薬剤師と非薬剤師にお互いの認識の差を埋めてもらうことも狙いの1つです。
非薬剤師から業務が増えるという不安の声はありますか?
0402通知を受けて、非薬剤師がそういった不安を持つことは自然なことだと思います。そこで大切になってくるのが、KPIを共有し業務を見える化することです。薬剤師だけではなく非薬剤師も含めた全員が、今後のあるべき薬局・薬剤師の姿や業務シフトについて理解し合うために、お互いの頑張りが見えるように工夫しています。
また、仕事に対してのマインドを醸成することも大切です。例えば、非薬剤師に向けて、その業務を負うことによって患者さんにもっといいサービスができるようになることを伝える研修を実施しています。薬剤師には、今まで以上に薬学的業務に力を入れるような教育・研修を行なっています。マインドを醸成するためにも、薬剤師と非薬剤師双方を並行して教育していく必要性を感じています。
そのほかに、取り組んでいることはありますか?
なの花薬局としては、組織体系のベースとなる教育を強化していきたいと考えています。また頑張っている店舗や社員たちがキャリアプランを描けるように、人事制度の変更を行うなど工夫しています。店長制やスタッフリーダーの設置は、その一例です。
調剤業務をシステム化して非薬剤師の役割にシフトするのも、すべては患者さんのための薬局づくりが目的ですよね。薬剤師がどれだけ対人業務に時間を割けるかということをしっかりと追い求め、具体的な施策を導入していくことが大切だと感じています。
4 0402通知を紐解いて見えた、地域医療貢献に向けた選択肢
調剤自動化機器の導入による調剤業務の分業化、調剤鑑査システム導入による待ち時間の軽減や、教育指導や研修受講による非薬剤師の調剤業務への移行により創出された時間は、薬剤師の対人業務や認定薬剤師の資格取得などにより専門性の高い知識・スキルを身につけるための自己研鑽、ひいてはかかりつけ薬剤師として患者さんの適切な薬学的指導を可能にします。
0402通知を深く読み解けば、調剤薬局の安定経営に繋がり、地域医療への貢献を加速するための多くのポイントが隠されていました。長引くコロナ禍において、厚生労働省が描いていた調剤薬局が地域医療の一旦を担うというビジョンはさらに重要性を増しています。
0402通知及び改正薬機法の目的は、患者さんのニーズにマッチした医薬品や医療機器をより安全に、早く・効率的に提供し、患者さんがお住まいのエリアで安心して医薬品を使えるようになるための環境整備。薬剤師だけでなく、非薬剤師も含めた調剤薬局に携わる全員でこれに取り組み推進することが、自店舗の発展、ひいては地域医療の発展、患者さんの健康維持・増進へと繋がっていきます。そのために今何から始めるべきか、未来の薬局経営を見据えた選択と推進を検討しましょう。
Recommend
関連記事2021.06.30
少子高齢化の進展、独居高齢者世帯や高齢者のみの世帯の増加などにより長期間の療養や介護を必要とする患者さんが増えているため、年々と在宅医療の必要性が高まっています。さらに厚生労働省が策定した地域医療構想では、医療費削減を促すために入院病床数を減らし、在宅医療を推進しています。2020年度の診療報酬改定では在宅患者オンライン服薬指導料(月1回まで57点)が新設され、2021年度の介護報酬改定では居宅療養管理指導で情報通信機器を用いた服薬指導(月1回まで45単位)が新たに評価されました。めまぐるしく移り変わっていく在宅医療に関する制度を前にすると、在宅訪問を始めることに踏み切れずにいる保険薬局としては、少しハードルが高いように感じてしまうかもしれません。
この連載では、まだ在宅業務を始めていない、あるいは始めて間もない保険薬局向けに在宅訪問を始めるための準備や方法、制度などのお役立ちコラム、現場で活躍している薬剤師や薬局の姿をお届けしていきます。
2021.02.08
これからの薬局で最も求められるスキルといっても過言ではない「コミュニケーション」。もちろん薬剤に関する知識も必要ですが、調剤や服薬指導をするために患者さんの情報を引き出すヒアリングスキルも要求されます。今回は、コミュニケーションの中でも、患者さんの本音を聞き出すヒアリングの実践スキルを紹介します。
2021.01.29
2019年に成立した改正医薬品医療機器等法(薬機法)により、「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」(専門連携薬局)の2つの認定制度が2021年8月から新設されます。これを受けて調剤薬局では、認定要件を満たす薬剤師の育成を強化する動きが加速しています。
認定基準をクリアするには? 薬局の取り組み等、認定取得に向けて薬局経営者が押さえるべき基礎知識をまとめました。
2021.01.22
2019年4月に発出された「0402通知」は、これまで明確化されていなかった非薬剤師の調剤補助に関する公的な見解が示されたことで注目を集めました。2019年12月に改正薬機法が公布となった今、0402通知で非薬剤師の調剤補助業務の範囲が示された背景を再確認し、調剤薬局経営者が店舗経営に関して取り組むべき点を考えてみたいと思います。
2021.01.15
高齢化が進む日本の国民医療費は43.6兆円、薬局調剤医療費は7.7兆円を超えました。院外の薬局で調剤を受けた割合を表す「処方箋受取率」はじつに70%を超え、医薬分業は確実に進んでいるように見えます。ところがその多くが、医療機関の近隣に位置するいわゆる門前薬局で調剤を受けているケースと言われています。これでは「医師と薬剤師がそれぞれの専門性を発揮し、薬局が服薬情報を一元管理する」という医薬分業のあるべき姿とは言えません。そこで厚生労働省は、“患者さんのためのかかりつけ薬剤師”としてのあり方を「患者のための薬局ビジョン」に示しました。近年の調剤報酬改定の根っこはこの薬局ビジョンにあり、“患者さんのためのかかりつけ薬局”を目指すことこそ、薬局生き残りのヒントとなります。今回は、大型チェーン薬局の台頭にも負けない薬局経営のヒントを探ります。
2020.12.23
昨今、薬局業務を自動化することで生産性を向上させようとする動きが活発になっています。たとえば、散薬調剤ロボットの導入などにより調剤オペレーションが自動化されることで、薬剤師は調剤された薬が正しいかどうかの確認や、服薬指導に集中できるようになります。こうした調剤業務の自動化により、薬局には「調剤過誤、医療事故が減る」「患者さんの待ち時間が減る」など、さまざまなメリットが期待できます。この機会に、薬局業務と向き合い、本来の薬剤師の仕事とは何かを今一度考えてみてはいかがでしょうか。
Contact
お問い合わせSupport Service
薬局経営支援サービス「医薬品ネットワーク」
Interview
インタビュー記事「薬局の存在を、次のフェーズへ」
会社やエリアの垣根を超えて。
若手薬剤師合同研修を主催する狙いとは?
「薬局の存在を、次のフェーズへ」
株式会社フォルマン
取締役・研修認定薬剤師秋山 真衣
研修認定薬剤師 小林 大介