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薬価毎年改定、コロナ禍でスタートへ
社保費抑制の切り札、倍の速度で差益減

2021年度の薬価改定が予定通り実施されることになりました。この年は「毎年改定」の初年度に当たり、市場価格との乖離率が大きい品目の薬価を引き下げます。財務省によると、それによって国費ベースで1,001億円を節約できる見通しです。新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われる中、医療現場や医薬品の流通が混乱しているとして、関係者からは改定の見送りや延期を強く求める声がありました。しかし、政府は実施の方針を曲げず、都市部などで高齢化が急激に進行し始める2022年を目前に控え、財政健全化を進める姿勢を強く印象付けました。薬価の毎年改定は薬局経営にどんな影響をもたらすのでしょうか。 ※この記事は「CBnews」とのタイアップ企画です。

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薬価下げで国費1千億円圧縮

2021年度薬価改定の枠組みは、田村憲久厚生労働相や麻生太郎財務相らによる2020年12月17日の予算折衝で決着しました。保険適用されている全1万7,550品目のほぼ7割に当たる1万2,180品目の薬価を引き下げることが柱で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う薬局や医療機関などへの影響に配慮し、引き下げ幅を特例で0.8%分緩和します。

また、医薬品を供給する最低限のコストを確保するため、剤形ごとの「最低薬価」までに下げ幅をとどめるなど、市場価格に基づく引き下げの影響を調整する4つのルールを適用することになりました。財務省は、一連の見直しで2021年度に国費1,001億円(医療費ベースだと4,315億円)を節約できるとしています。

薬価改定は従来、2年置きに行われてきましたが、今後は「中間年」を含めて毎年行うこととされていて、2021年度は毎年改定の初年度に当たります。医薬品の市場価格を公定価格である薬価に適時反映させ、国民の負担を軽くするのが狙いです。

ただ、2年置きの従来の薬価改定と異なり中間年の改定は、保険適用されている全ての医薬品を対象に行うわけではありません。薬価を見直す根拠にするため、全品目を対象に実際の取引価格(市場価格)を調べ(薬価調査)、そのうち市場価格との乖離(乖離率)が大きい品目の薬価を引き下げるというのが基本的な流れです。

対象品目の設定など2021年度の改定の枠組みは、薬価調査の結果や新型コロナウイルスの感染拡大の影響などを踏まえて「十分に検討」し、2020年中に決めることとされていました。

2020年9月の取引分を対象に行った薬価調査では、市場価格との乖離率は、保険適用されている全医薬品の平均で約8.0%という結果でした。2021年度に薬価を引き下げる1万2,180品目は、そのうち市場価格との乖離率が5.0%を超えるものです(表)。

表 2021年度薬価改定による医療費への影響と改定対象品目数

中央社会保険医療協議会・薬価専門部会(2020年12月18日)の資料を基に作成

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コロナが直撃、医療団体「改定見送りを」

そうした枠組みを巡る調整は難航しました。政府内では、「初年度にふさわしい改定」の実現を財務省が訴え、全品改定を視野に入れた厳しい対応を求めました。財務省はさらに、市場価格との乖離率や対象の品目数だけでなく「乖離額」にも着目すべきだと主張し、市場価格の加重平均値に一律2%分を上乗せして新しい薬価を決めている「調整幅」の見直しにも踏み込みました。

一方、医療団体からは慎重な対応を求める声が相次ぎます。2020年6月10日には、日本医師会など3団体が合同で記者会見を開き、年内に予定されている薬価調査の見送りを求めました。新型コロナウイルスの感染拡大で医療現場や医薬品の流通が大きく混乱しているため、たとえ調査を行っても、市場価格を正しく把握するのは「極めて困難」だという主張です。

この日の合同会見に参加した日本薬剤師会の山本信夫会長は、新型コロナウイルス感染症への対応に尽力するよう呼び掛けながら、調査の負担を現場に掛ける国の姿勢を疑問視しました。

薬価改定の枠組みを議論する中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、中医協)の部会はそれと同じ日、医薬品卸や製薬企業の関係団体からヒアリングを行いました。医薬品卸の70社が加盟する日本医薬品卸売業連合会はその中で、新型コロナウイルスの感染拡大によって医療機関と価格交渉すら行えず、薬価調査のための環境整備どころではないと訴えました。

薬価調査は結局、規模を縮小した上で予定通りに行われましたが、中医協の部会では、日本薬剤師会など診療側の委員がその後も慎重な対応を求めました。2020年11月18日の会合では、林正純委員(日本歯科医師会常務理事)が「(調査結果の)精度が高くないと判断されたら(2021年度の)中間改定そのものを見送っていただきたい」などと訴えました。

その後、改定を行うかは2021年度予算案の編成過程で政府が最終判断することとされ、予定通り実施する方針が予算折衝の際、正式に示されました。

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薬価毎年改定で国民負担を軽減

医療現場に負担を掛けてまで予定通り薬価改定に踏み切った背景には、財政健全化への政府の焦りがにじみます。

医療や介護の費用が掛かる75歳以上の人口の伸びは、2020年から2021年にかけていったん鈍化しましたが、2022年から2024年には未曽有のペースで急増する見通しです(図)。人口のボリュームが大きい「団塊の世代」の人たちがこの期間に75歳以上になるためです。

図 高齢者人口の伸び率

財政制度等審議会「2020年度予算の編成等に関する建議」(2019年11月25日)を基に作成

しかも、2020年度には、新型コロナウイルス対策の経費を盛り込んだ補正予算を相次いで組んだため、国や地方が多額な公債の発行を余儀なくされました。財務省によると、日本の「債務残高対GDP比」は、2020年度には戦後間もない時期を含めてかつてない水準に上昇し、財政健全化の取り組みが不可欠です。

2022年以降の高齢化によって社会保障費が急激に膨らむことを想定し、政府は、2019年度からの3年間を社会保障改革などで足固めをする「基盤強化期間」と位置付け、この期間の社会保障費の伸びを高齢化に伴う増加分のみに収めるという「目安」を達成してきました。2021年度はその3年間の最終年に当たり、2020年末の予算折衝では社会保障費の伸びの削減策が大きな焦点でした。

政府は、各省庁が概算要求を行った夏の段階で2021年度の社会保障費の伸びを4,800億円程度と見込んでいました。予算折衝では、介護報酬などを引き上げる一方、薬価改定のほか、後期高齢者医療制度の保険料を軽減する特例の見直しなど既に決まっている制度改正によってそれを差し引き3,500億円程度に抑えることで決着しました。

麻生財務相は折衝翌日の閣議後の記者会見で、2021年度の予算案でも「目安」を「達成できた」と強調して見せました。

薬価の毎年改定は、塩崎恭久厚生労働相(当時)らが2016年末に合意した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に初めて盛り込まれました。あくまで「国民負担を抑制する」ためですが、政府内では、社会保障費の伸びの抑制を巡り激しい攻防が毎年繰り広げられていて、薬価の毎年改定がそのための切り札という印象です。

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「薬局は中長期の視点を今こそ」

薬局や医療機関にとって毎年改定は、年度をまたぐたびに「差益」が減ることを意味します。薬局では、収入に占める薬剤料のウエートが医療機関より大きく、経営面で一層シビアな対応が求められます。医薬品卸との価格交渉を代行し、薬局経営をサポートする事業を行う(株)メディカルシステムネットワーク(メディシス)の勝木桂太・SCM事業本部副本部長兼営業推進部長は、「従来水準の薬価改定率が維持された場合、毎年改定になると、単純にこれまでの2倍のスピードで薬価が下がるのに調整幅は2%のまま。売上・利益共に影響を受けるため、非常に厳しい」と危機感を強めています。

メディシスでは、新しい薬価が3月に官報告示されたら2021年度改定の影響をシミュレーションし、対応を決める方針です。

2021年度の薬価改定では、後発薬の全品目の83%に当たる8,200品目が引き下げの対象にされました。安全性や安定供給が確かな品目をそれらの中から見極め、新薬価の告示から4月までに納入価格を固めなくてはなりません。現場では、取引がある全国の医薬品卸40社以上との価格交渉をそれぞれ急ピッチで進める必要があり、「これが毎年だと負担はかなり大きい」(勝木副本部長)。

その上、新型コロナウイルスの影響で、薬局や医療機関だけでなく医薬品卸も厳しい経営を余儀なくされています。和田章宏・SCM事業本部ネットワーク営業部長は、それだけに各社との価格交渉がこれまでになく厳しくなると予想しています。

そして、2人が共通して指摘するのが、中長期の視点で地域医療のために何ができるか、薬局が見極めることの大切さです。

勝木副本部長は、「自社最適だけを追求しても、これからは恐らく長続きしない」。和田部長は、「地域連携薬局になるためトレシングレポートをやみくもに出す可能性などが取りざたされているが、近視眼的な取り組みに目を奪われず、地域医療のために何ができるか、薬局は今こそ5-6年後を見据えて方針を考えるべきだと思う」と話します。

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